文庫本の中の言葉

 −もちろん、『愛のゆくえ』の図書館も、その図書館に置くためのたった一冊の本を書く無名の「作者」も実在しない。しかし、そんな場所は、どこかにあり、それほどまでに孤独な人たちは、どこかに必ず存在するのである。
 ブローティガンは、その「孤独」を知る、数少ない作家のひとりだった。
 彼は少しずつ書かなくなり、ひとりで閉じこもるようになった。彼は、彼が出発した「図書館」に戻った。それは彼の「生」の前にあった「死」の場所だったような気が、僕にはするのである。

  解説 「ブローティガンと作家の死」 高橋源一朗

 「愛のゆくえ」リチャード・ブローティガン 青山日出夫訳 早川書房