本の中の言葉

 絵画の誕生について知られていることはほとんど何もない、と大プリニウスは「博物誌」第三十五巻一四で書いている。しかし、ひとつだけ確かなのは、人間の影の輪郭を初めて線でなぞったときに絵画が誕生したということである。西洋の芸術表象の誕生が「陰画=否定」にあるということは、きわめて重要だ。

「影の歴史」ヴィクトル・I・ストイキツァ 岡本温司・西田兼訳 平凡社