本の中の言葉

ー舞台を「一枚の絵」と見るゲーテにとって、俳優はそのなかの「添景」である。絵画的効果を薄めることのないように、「俳優は舞台装置に近づきすぎてはならない」し、額縁内に劇が収まるためにも俳優は「前舞台にでるようなことは許されない」。俳優の身ぶり(指の動きの細部にまで至る)や舞台上のポジシヨン(歩行の方法なども含む)についても、網領的な性質を帯びた要請がなされた。こうした細目を規定しているゲーテの「俳優規則」について、鴎外は「大抵優人の心育に求むべきものまでを、其姿勢に求めんとする弊あり」と述べ、批判的な立場を表している。−

「演劇場裏の詩人 森鴎外」 井戸田総一郎 慶応義塾大学出版会