本の中の言葉

松浦ーたしかに画家は視覚性に開かれているかもしれないけれど、それ以上に反視覚的、非視覚的なもの、見えないものの領域に直面せざるをえない経験をもっています。ある何らかの目の前にあるものを写実的に描くという文脈を考えても、視覚という経験が発動するためには対象と描く主体との間に距離が前提になるはずです。ところがその距離それ自体はけっして見えない。つまり目に見えない不可視な距離、その不可視性というものを前提にしないかぎり、視覚という作用は発動されえない。−

「絵画の準備を」 松浦寿夫 岡崎乾二郎 朝日出版社