文庫本の中の言葉(2)

 いい人生とは何だろう。私たちは常に別々の方法論、アプローチで、それぞれに目的をかかげていい人生を希求している。カネ、オンナ、権力、健康、ささやかな幸せ、心の平安、子供の健全な発育・・・、現実的には別々のかたちをとりつつも、本質的に求めているものは同じだ。いい人生。死が人間にとって最大のリスクなのは、そうした人生のすべてを奪ってしまうからだ。その死のリスクを覚悟してわざわざ危険な行為をしている冒険者は、命がすり切れそうなその瞬間の中にこそ生きることの象徴的な意味があることを嗅ぎ取っている。冒険とは生きることの全人類的な意味を説明しうる、極限的に単純化された図式なのではないだろうか。

「空白の五マイルーチベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」
  角幡唯介 集英社文庫

 *命のすり切れる瞬間に接近したいという冒険者的な欲望は誰にでもあるだろうなー。
 「カネ、オンナ」の前に「表現」が入るのがものを作っている者たちだろうね。私もまず何より先に「表現」。それが最初。それ以外なにもない。