新書の中の言葉

ーもし死ぬ時に「女優さんの共演者で一番誰に惚れたか」と聞かれたら、それは夏目雅子さんです。
 女性としても女優としても、どちらも魅力のある方って少ないんですが、彼女は女優としてだけでなく女性として、人間として魅力的でした。『鬼龍院花子の生涯』の撮影に入るときには、あの子はもう病気だったんですよ。それで、撮影前に私に「仲代さん、私、病気持ちでして、ここに大きな傷跡があるんです。それで、仲代さんとはラブシーンがあるから先に見せておきます」って、パッと着物をはだけさせて、胸元の手術跡を見せてくれたんです。その時、これは凄い人だなと思いました。わが身を削ってまで、共演者に気を遣ってくれたわけですからね。

 「仲代達矢が語る日本映画黄金時代」 春日太一 PHP新書