本の中の言葉

「月は夢想を誘う天体であり、その表面は銀色の鏡、あるいはレンズ、いや映写機の電灯の光の束を反射する凹面鏡だ。映写機から放たれるのは、時間を旅した末に白い銀幕にたどり着く月光めいた光だ。それが照らし出すのは、影絵芝居だ。そこに映し出される現実、あのような男女のシルエットは、人がそれらを眺める時、たしかに生きて動いているのにもはや存在しなくなっいているからである。」

ル・クレジオ、映画を語る」中地義和訳 河出書房新社