戯曲の中の言葉

平吉 「夜、凧を上げるにはこれくらいの風が一番面白い。」
塩子 「夜も上げるんですか?」
清二 「こんな闇夜じゃなにも見えないじゃないですか。」
平吉 「月夜だってほとんど見えない。」
清二 「なにが面白いんですか、そんなの。」
平吉 「なにも見えないから、糸を通して判断するしかない・・・糸に伝わってくる感触から凧の動きを察し、あれこれ一生懸命あやつっていると・・・心のなかに凧の姿がはっきり見えてくる。」
塩子 「心のなかに凧の姿がはっきり・・・」
平吉 「そう、なにも見えないから、かえって鮮やかに見えてくる・・」
塩子 「人間なんてその逆・・・毎日顔をつき合わせていると、かえってその人の姿が見えにくくなってくる・・・」

「エレジー 父の夢は舞う」 清水邦夫