文庫本の中の言葉(2)

 いい人生とは何だろう。私たちは常に別々の方法論、アプローチで、それぞれに目的をかかげていい人生を希求している。カネ、オンナ、権力、健康、ささやかな幸せ、心の平安、子供の健全な発育・・・、現実的には別々のかたちをとりつつも、本質的に求めているものは同じだ。いい人生。死が人間にとって最大のリスクなのは、そうした人生のすべてを奪ってしまうからだ。その死のリスクを覚悟してわざわざ危険な行為をしている冒険者は、命がすり切れそうなその瞬間の中にこそ生きることの象徴的な意味があることを嗅ぎ取っている。冒険とは生きることの全人類的な意味を説明しうる、極限的に単純化された図式なのではないだろうか。

「空白の五マイルーチベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」
  角幡唯介 集英社文庫

 *命のすり切れる瞬間に接近したいという冒険者的な欲望は誰にでもあるだろうなー。
 「カネ、オンナ」の前に「表現」が入るのがものを作っている者たちだろうね。私もまず何より先に「表現」。それが最初。それ以外なにもない。

文庫本の中の言葉

 自然が人間にやさしいのは、遠くから離れて見た時だけに限られる。長期間その中に入り込んでみると、自然は情け容赦のない本質をさらけ出し、癒しやなごみ、一体感や快楽といった、多幸感とはほど遠いところにいることが分かる。

 「空白の五マイルーチベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑むー」
  角幡唯介  集英社文庫

 *「自然はいいねー」などと言ってるのは、人工の別荘地とか、温泉とか、観光地の風景。自然なんかじゃない。

文庫本の中の言葉

 ことばは沈黙を引きしたがえることによってはじめて言語表現として屹立し、沈黙はことばとの緊張関係のなかではじめて意味のふぃくらみを手にいれる。

  「言葉への道」 長谷川宏 講談社学術文庫

 
 *芝居のセリフなんか、間の沈黙で表現してるもんだから実感としてわかるねー。「意味のふくらみ」っていい表現!

新書のなかの言葉

 そもそも人間は有機物でできている。有機物とはカーボン(炭素)を主体とした化合物だから、人間はカーボンと相性がいい。紙もカーボンであり、本は紙に限るのである。

 「本は、これから」池澤夏樹編 岩波新書 「本の棲み分け」池内了


 *なるほどー!素材として相性いいんだから決定的だ。電子書籍読む気起こらないわけ分かった!(笑)です。

本の中の言葉

世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。

「悲しき熱帯」レヴィー=ストロース 川田順造訳 中央公論新社

 

 *今日、卒業生の結婚式に出席した。そうしたら、なんと、彼女のお父さんは、川田順造さんだった!おどろいた!

本の中の言葉

芸術家とは生物学的な遺伝と、技術的な革新によってつくられた環境とのあいだに架橋する手段を発明する人間のことである。

「メディアの法則」 マーシャル・マクルーハン+エリック・マクルーハン 訳中澤豊 NTT出版

本の中の言葉

フーコーは、死は生とは全然別の次元というか問題というか、生まれてから死ぬまで全部を照らして見ることができる場所に死というのはあると言った。これは非常にいい考えかただと僕は思います。

 「老いの超え方」 吉本隆明 朝日文庫