本の中の言葉

清水 前に黒井千次さんと対談したときに、小説家から見れば戯曲家は断念がものすごく多いんじゃないかって言われた。確かに向こうは自分の文章だけで完結するわけですよ。ぼくらのは、戯曲書いたあと、演出家に委ねて、最後俳優が声を出し動いていく、そういったことに渡していくことが、ひとつの断念によって支えられていると思う。ただ、いい状態の場合、いつも断念の淵でふしぎな燃焼をしいられる、演劇の器としてのきびしさを知るとういか。
 「清水邦夫の世界」白水社 

週刊誌の中の言葉

 女たちにとっての「容姿」は、自分の価値に直結している。なんだかんだ言っても美人には高い値段がつくことを我々は身をもって知っているのだ。
 それは確かに「商品価値」に過ぎず、本人の「人間としての価値」とはまた別の問題であろうが、物心ついた時から資本主義社会に生きている我々が「商品=己の価値」と考えてしまうのは無理もなかろう。この世の存在にはすべて値札がついており、人間とて例外ではないからだ。

 週刊文春10月4日号「さすらいの女王」中村うさぎ

戯曲の中の言葉

清二 一度聞いてみたかったんだけど、なにが塩子さんの神経をおかしく   したというか、さいなんだというか・・・それは、男性関係?
塩子 ・・・そうじゃないわ、・・男性じゃなかった・・・女優という仕   事よ。
清二 そんなに大変なもの?
塩子 それにむいていない人間にとってはね・・・おかしなものよ、男性   とのつき合いでは自分てものが忘れられる。ところが女優って仕事   は、とことん自分ってものと対面させられる、自分のなかの女と毎   日対面させられて・・・シンドかった・・・それでだんだん自分て   ものがわからなくなっていって・・・ 

   「エレジー 父の夢は舞う」 清水邦夫

本の中の言葉

 いうまでもなく「前衛」とか「実験」とは近代的な劇形式や思考方法に対しての批判であり、より根源的な演劇批判である。おそらくその思考を実践しているのは、演劇以外のパフォーマーや、他ジャンルのアーティストたちかもしれない。むしろ演劇は先端意識において立ち遅れ、業界的な充足構造に開き直り、「前衛」的な意識を後退させてしまったと言うべきだろう。

  「見ることの冒険」 西堂行人 れんが書房新社

パンフレットの中の言葉

 京都の東福寺という禅寺に三門というのがあります。これは空門、無相門、無作門といって、人間が悟りを開いて心おだやかに生活するために必要な3つのくぐらなければならない門を意味します。空門は物事には実体がない、すべてうつろい易いものであると悟ること。無相門はあらゆる変化に目を奪われてはいけないということ。無作門は人間の欲望の対象となるものは実体がない、ということを意味します。

 慶應義塾大学アート・センターARTLET第38号 近藤誠一

本の中の言葉

 僕は太宰治という人が好きですが、なかでも一番好きな言葉は「平家ハ、アカルイ。(中略)アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。」という実朝のせりふです。
 これは『右大臣実朝』の中に出てくるのですが、僕がもっとも好きだと言っていいくらいの言葉です。いまの日本の社会にもあてはまるのではないでしょうか。いまの日本社会は、比較的明るいのですが、これは滅びの姿ではないかと思うことがあるからです。

 「真贋」 吉本隆明 講談社文庫

本の中の言葉

 いま、世の中を見ていると、すべてが逆な方向に進んでいるような気になることがある。あまりにも常識的な「問い」と「答え」にあふれ、実は本当に考えるべきことを考えずに、考えなくてもいいことを考えているのではないか。滑稽ですらある。

 「真贋」 吉本隆明 講談社文庫